月のあかり




資生堂をやめて コピーライターを目指したとき 自立するために選んだバイトは イベントの制作スタッフだった。

大阪の飲食店街のイベントで バンドコンテストをしたときの 審査員長兼ゲストは桑名正博さん。

シャ乱Qがコンテストに出てて、 すでに追っかけもいる人気ぶりでも 私はシャ乱Qを知らなかった。

事前の打ち合わせでは、 はたけさんが出てくれて とても礼儀正しかった印象がある。

観客のほとんどが、 優勝はシャ乱Qだと思ってたと思う。


シャ乱Qも優勝するのは俺らだ みたいに見えて、 自信って顔に出るんだな すごいなと私は思って見てた。

桑名さんが決めた勝者は、 シャ乱Qじゃなかったから、 観客から罵声が飛んできた。

でも桑名さんが選んだバンドは、 今も現役で活躍しているから 桑名さんのセンスはすごいと思う。

桑名さんは当時、 あの事件から再起した後だった。 だから事件のことを刺す人もいた。

それでも桑名さんは 真っ直ぐに前を見て 不機嫌な顔ひとつしないで 堂々と立っていた。

私はその姿に尊敬すら覚えて ポロポロ泣けてきた。

桑名さんの弾き語りで 終了の予定だったけど、 途中、ギターの弦が切れた。

弦が切れたまま歌いきったあと、 コンテストに出てたバンドの子が 桑名さんに自分のギターを渡した。

当時の私の日記には、 オベーションって書いてある。 桑名さんはそのギターを借りて、 苦笑いしながら嬉しそうに、


「ほな、もう一曲いこか!」

といった瞬間、 会場は大喝采に変わった。

このイベントは 審査員席も貧弱で みすぼらしい設営だったけど、 桑名さんは文句一つ言わず、 ペーペーの私にも 気さくに対応してくれた。

パイプ椅子を片付けてたら 3脚重ねが持てない私を見て、 6脚重ねて運んでくれた。

山本真弓かぁ。 ええ名前もろたな。 将来は何になりたいねん?

>コピーライターです!


そうか! 真弓ちゃんやったら 物語いっぱい書けるわ。

>どうしてですか?


男が恥を晒してる時に 黙って泣いてくれる女に 男は惚れるからな。

美人に泣かれたらイチコロや。

桑名さんが2曲目に歌ったのは、 鉄格子から見える月を書いた 「月のあかり」だった。

その歌で今日も私は目覚める。
























ヤマモトマユミ